泣いて引き留めるなんて最低だとわかっている。
 けれど、これが自分の1番の願いだとわかった時から想いを止められなかった。

 
 「………あなたが好き。」
 「……………ぇ………。」
 「私、ミツキが好き。………ずっと一緒に居てほしい。離れないで、抱き締めていて欲しい。…………大好きなの………。」
 「………エルハム………俺は、ただの護衛だ。おまえは姫で………。」


 戸惑った様子で言うミツキに、エルハムは首を横に振って答えた。


 「仕方がないじゃない。………好きになってしまったんだもの。」
 「……………。」


 エルハムは涙を流しながら、ミツキを見つめた。 
 けれど、ミツキは戸惑い、迷った様子でエルハムから目を逸らした。

 
 それを見た瞬間。
 エルハムは、頭が真っ白になった。

 あぁ、ミツキはやはり日本に帰りたいのだ。
 こんな小さな一国の姫で、仕事として優しくした相手に急に想いを伝えられても、迷惑なだけなのだ。
 待っている人がいる日本に帰りたいに決まっている。望んでこのシトロンに来たわけではないのだから。

 彼の気持ちを感じ、エルハムは彼からすぐに体を離した。

 
 「………ごめんなさい。」
 「…………エルハム?」
 「急にこんな事言ってしまって………どうかしてたわ。」
 「おい………待っ………。」


 手を伸ばしたミツキを避けるように、エルハムは立ち上がり置いてあった鞄を持った。


 「……行ってくるわ。」
 「っっ!………エルハムっ!」


 エルハムは彼の声から逃げるように馬車から飛び降り、雨の中を走った。
 ここでミツキが出てくれば、エルハムの正体がバレてしまう危険がある。
 ミツキが追ってくるはずもないとエルハムはわかっていたけれど、必死にバックを抱き締めながらトンネルまで走った。

 しばらく走りトンネルに着く頃には、全身がずぶ濡れになっていた。
 洋服がべったりと肌に着いて不快だったけれど、エルハムは安心していた。
 これで、泣いている事など誰にもバレない。そう思ったのだ。

 トンネルは雨のせいか人が少なかった。

 エルハムは濡れた手で目を擦った。


 「…………ミツキのばか。」


 エルハムは濡れた手で目を擦りながら、そう呟いた。