「どうしたんだ?………どこか痛いのか?」
 「……………。」


 ミツキがエルハムの体を離し、顔を覗き込んでくる。エルハムは涙を流した瞳のまま、心配そうに自分を見つめるミツキを見つめた。

 いつも自分は彼をこんな表情にしか出来ない。笑っていて欲しいのに、彼を困られてばかりだ。
 そんな風に思いながらも、久しぶりしっかりと見るミツキの顔。最近はぎくしゃくしてしまい、なかなか視線を合わせられず、寂しい思いをしていたのだ。
 間近で彼を見つめるだけで、エルハムの心は高鳴り、ミツキに近づきたいと思ってしまう。

 帰ってしまうならば、彼に自分の気持ちを伝えてしまおう。
 伝えないで終わってしまい、後悔するよりはいいだろう。
 どうせ叶わない、切ない恋なのだから。

 エルハムはミツキにゆっくりと近づいた。
 そして、ふわりと軽い触れるだけのキスを彼の唇に落とした。

 ミツキは、何が起こったのかわからない様子で、ただ驚いた表情をしている。


 雨足が強まったのか、天井を叩く雨音が馬車の中を支配していた。
 それ以外は聞こえない。2人が見つめる時間は長いように感じたけれど、一瞬だったのかもしれない。
 沈黙を打ち消したのは、エルハムだった。


 「………居なくならないで。」
 「…………エルハム………。」
 「お願い、私を残して帰らないで。………ミツキ、お願い。」
 「…………。」
 

 エルハムはボロボロと涙を流し、ミツキの腕に掴まりながら、懇願するように彼に強く言葉を伝えた。