「準備出来たか?」
 「うん。もう行けるよ。」
 「わかった。俺はここで待ってるから。………あっちで何か気になる事があったらすぐに戻ってくるんだぞ。」
 「大丈夫よ。ちゃんと本を借りてこれるわ。」
 「俺が心配なんだ。無理はするなよ。」

 ミツキは真剣な表情でエルハムに言い聞かせるようにそう言うと、いつものようにエルハムの頭をポンポンと撫でた。
 そして、その感触と暖かさがすぐに離れてしまう。
 
 どうして、そんなに優しい言葉を掛けてくれるのか。優しく触れてくれるのだろうか。
 いつか帰ってしまう場所がいるのに。
 それなら、優しくされない方がよかった。
 
 でも、優しくしてくれるなら………帰らないでここに居て。
 ずっと、隣で微笑んでいて欲しい。

 
 そう思うと、エルハムは自然と体が動いていた。
 エルハムは、両手を伸ばしミツキに抱きついたのだ。
 屈んでいたミツキに抱きつくように、腕を伸ばして彼の背中を掴んだ。


 「……………。」
 「え、…………エルハム?」


 ミツキは戸惑い、体を固めたまま動けずにいた。彼の表情を見なくてもわかる。ミツキが困っていると。
 けれど、エルハムは抱きついた腕を緩める事は出来なかった。

 彼が愛しくて、大好きな気持ちが止まらなくなってしまった。


 エルハムは、彼の体温や香りを感じると、いつもは幸せな気持ちになるのに、今はとても切なくなるばかりだった。彼を感じながら、エルハムは気持ちにのまれてしまい、目から涙が溢れでた。

 流した涙が、ミツキの洋服を濡らしていく。
 ミツキもエルハムが泣いているのに気づき、エルハムの肩に手を置いた。