「ごめんなさい。……なんだか、とてもしっくりくると言うか。この漢字を知らなくても、『こい』ってわかるって感じたの。不思議だけど………。この漢字はとても素敵ね。好きになったわ。」


 エルハムは愛おしい気持ちで、ミツキの書いた文字を見つめた。
 何故かわからないが、この文字を見たことがあるような、「恋」という字だとわかるような気がしたのだ。
 どうしてエルハムは漢字に惹かれているのか。それは、この漢字に出会うためではないかと思ってしまうほどだった。

 エルハムが夢中になっていると、ミツキは微笑みながらまた新しいことを教えてくれた。


 「この漢字に『愛、してる』と書くと「あいしてる」になるし、『愛、しい』と書くと『いとしい』になる。」
 「………そうなの。ますます素敵ね。」
 「そんなに気に入ったのか?」
 「えぇ!」
 「なら、書くのを練習しないとな。」
 「そうするわ。」


 エルハムはその言葉を聞いて、急いでペンを持ちミツキの書いた「恋」を真似して書き始めたのだ。



 
 そんな昔の事を思い出して、エルハムは微笑んだ。
 ミツキが書いた漢字の下には、エルハムの書いた歪な「恋」の文字。
 何回書いてもバランスが悪い気がして、エルハムは悔しく何度も書き続けのだった。
 そんな事さえも懐かしくて、エルハムはその紙を抱き締めた。


 「愛しているは、ミツキ………。」
 
 
 明日はチャロアイトの行き、本の続きを読める日だ。
 もしかしたら、そこには日本に戻る方法が書かれているかもしれないのだ。




 ミツキとの時間が終わる。
 そのカウントダウンが近づいているのだと、エルハムは少しずつ感じてきてしまう。


 「あんな本………出会わなきゃよかった。」


 そう呟いた自分の声を聞いて、エルハムは大きくため息をついた。