エルハムはどうしても知りたい言葉があったのだ。いつも、聞こうと思っては恥ずかしくて止めてしまっていた。
けれど、その日は絶対に聞こうと心に決めていたのだ。
「どうしたんだ?今日は随分集中してないみたいだな。体調悪いなら止めるか?」
「え、違うわよ!?そんな事はないの………ただ。」
「……ただ?」
その時のミツキは、不思議そうにエルハムの顔を覗き込んでいた。そんな彼の行動が、さらにエルハムをドキドキさせるとはわかっていなかったのだろう。
エルハムは口ごもり、何度か諦めようとしたが、ミツキは返事を待っていたため、エルハムはやっとの思いで考えていた事を口にした。
「『あいしてる』、という漢字を教えて欲しいの。」
「………あぁ。だから照れてたのか。」
「だって、何となく恥ずかしいじゃない。」
「そうなのか?………『あいしてる』は………。」
そう言って、ペンにインクをつけて、ミツキは丁寧に文字を書いていく。
ミツキはとてもゆっくりと時間をかけて字を書いてくれる。漢字を教えるときは特にそうだった。
ミツキが書いていく文字を、エルハムはまじまじと見つめた。
細かい線を丁寧に書いていく。
そして、出来上がった文字を見せた。
「『恋』って漢字だ。」
「ありがとう…………。」
エルハムはその文字を見つめたままボーッとしてしまった。
それを見て、ミツキは「どうしたんだ?」と、聞いてくる。エルハムは、ハッとした様子で、ミツキを見た。