そして、ミツキのニホンに帰りたいという言葉は、エルハムをどん底に突き落とした。
ミツキはいつかいなくなってしまう。その事が信じられなかったのだ。
彼への想いが好きだと気づいたばかりだと言うのに、こんなに切ない事があるだろうかと、エルハムはベットで独り泣き続けた。
「やっぱりミツキには大切な人がいるのかな………。」
守りたい人とは、彼の大切な人。
エルハムの専属護衛になって守ってくれていたのは、ただの仕事であり、強くなる理由は別の人のためだったのだとわかると、エルハムは誰かもわからない相手に嫉妬をした。
今は誰よりも近くにいるのは自分のはずなのに、彼の想いは遠い所にある。
幼い頃から、彼がどこかに行ってしまうかもしれない事も、元の国にミツキが大切にしてきた人達がいる事も知っていたはずなのに。
そして、ニホンへの手掛かりの本を彼に渡した時も覚悟したはずだった。
それなのに、何故涙が出てしまうのだろうか。
ミツキがいなくなるかもしれない事は、わかりきっていた事。
今更何を悲しむのだろうか。
きっと、周りの人はそう思うはずだ。。
けれど、エルハムにとって傍にミツキが居る事が当たり前で、それが幸せだった。
彼の傍だといつも自然に笑えた。
一国の姫という扱いではない、一人の女として見てくれているのはミツキだけだったのだ。
それがとても嬉しくて、心地よくて、エルハムはミツキといる時間が何よりも好きだった。
剣術を教える真剣な表情。
コメットと戦う勇ましい表情。
困ったように微笑む表情。
優しく見つめながら頭を撫でてくれる、ほんわかとした表情。
全てが愛しかった。
「どこにも行かないでよ………ミツキ。」
エルハムは、ベットで体を丸めながら、止まらない涙を流し続けた。
この日は全く眠ることなど出来ず、エルハムはミツキを思い続けたのだった。