「あの……ミツキ?どうしたの?」
 「…………悪かった。」

 
 ミツキは腕を交差させて、エルハムを逃がさないように抱き締めいた。そこ声は、何故か悲しげでエルハムは戸惑ってしまう。
 先ほどまで、あんなに怒っていたのにどうしてそんな切ない声を出すのか。エルハムは不安に思いながら彼の言葉を待った。


 すると、ミツキは顔をエルハムの肩に埋めたままゆっくり話し始めた。


 「おまえが俺のためにしてくれようとした事は嬉しいんだ。感謝してる。………けど、勝手にいなくならないでくれ。置き手紙を見た瞬間、頭が真っ白になった。」
 「ミツキ………。」
 「おまえがずっとニホンの事を考えてくれてるのは嬉しいよ。けど、俺はおまえを守りたいから。だから、俺が知らないところで傷つかれるのは嫌なんだよ。だから、おまえの考えること話してくれ。」
 「………うん。。私もあなたに相談もしないでしまったわ。心配かけてごめんなさい。」
 「…………エルハム、ありがとう。ニホンの事が少しでも分かれば、少し安心できるよ。」


 エルハムは彼の表情を見なくても、今どんな顔をしているのかわかる。
 きっと、少し照れながらも微笑んでくれているだろう。

 ミツキが自分の事を心配してくれて、そして「ありがとう。」と言ってくれる。その優しさが嬉しかった。
 そして、こうやって抱き締めてくれる。彼の熱を感じるとこうも安心してしまう。それは背リムの時とは違う安心感だった。


 やはり、ミツキが好き。とても大切な存在だ。

 そんな風にエルハムは思い、微笑みながらミツキの頭にコツンと自分の頬を寄せた。



 その後、2人はこっそりとシトロンの城へと戻った。エルハムの使用人だけが探していたようだったが大した騒ぎにはなっていなかったので、エルハムはホッとした。

 

 トンネルを出てからミツキに会ったことで、どこか安心しきっていたのかもしれない。同じくミツキもエルハムを見つけて警戒心がなくなっていたのかもしれない。

 エルハムとミツキを見つめる視線に、2人は気づく事はなかった…………。