第30話「不穏な視線」
エルハムは、急ぎ足でシトロンへ続くトンネルへ向かっていた。
すぐにでも本の内容を知りたく、図書館で読んでしまいたかった。しかし、チャロアイトに居る時間が長い程危険も増えていくはずだ。本のページを捲りたいのを我慢しながら、図書館を後にしたのだった。
図書館に来て、目的の物を手に入れたのは、ニホンとこちらの世界の事を何も知らなかったエルハムとミツキにとって大きな収穫となるはずだ。
けれど、残念な事もあった。図書館で借りられる本が1回で1冊のみだったのだ。エルハムが借りたい本は全部で3巻だ。最後の本を返しに来る事を考えると、セイになりすましてチャロアイトに入る危険な事をあと3回もしなければいけなくなるのだ。それは、エルハムにとっても大変な事だった。頻繁に城から抜け出すのはバレてしまう可能性も増える。
エルハムは今後どうしようかと悩んでいた。
検問は帰りとあって、呆気なく終わった。
そして、エルハムは明るく照されたトンネルを歩いた。シトロンの城下町に着く前に、森の中で着替えなければと考えていた。今は、大分日が昇り、人々も沢山居ることが予想できる。そうなると、セイの格好では歩いてしまうとかえって目立ってしまいそうだと思い、エルハムはバックに服を隠し持っていたのだ。
シトロンへ戻ってからの事を考えながら歩いているとあっという間にトンネルを抜けて自分の国へ戻ってきた。何事もなく終わった事に安堵しホッとした時だった。
「おい。こんな所で何やってるんだ。」
「えっ………。」