そんな作戦を思い付いたセイに感謝しながら、エルハムはチャロアイトの城の近くにある図書館に向かった。

 チャロアイトは魔法の国とあり、とても不思議な光景が沢山ある。道で魔法を使った大道芸をしていたり、風にのって飛んでいる人や、噴水の水を使って、魔法で色をつけたり、いろんな形にしたりして遊んでいる子どももいた。
 そんな様子を物珍しそうに見ながら、エルハムは先を急いだ。
 しばらく歩くと、図書館が見えてきた。古い造りに壁面は蔦で覆われている雰囲気のある建物だった。窓にはステンドグラスがあり、まるで教会のようだった。
 図書館の出入り口からは人が行き来しているのが見えたので、エルハムはホッとしながらそこへと向かった。

 中に入ると、エルハムは圧巻されてしまった。壁一面や本棚に本が並んでおり、それがとても高いところまで続いているのだ。そして、利用している人々は空飛ぶ椅子に乗って自由に本を探したり本を読んでいるのだ。
 そんなシトロンでは見られない光景に、エルハムは呆然としてしまった。


 「この図書館のご利用は初めてですか?」
 「………あ、はい。」
 「私はここの司書です。椅子の使い方をお伝えしますね。」
 「はい、ありがとうございます。」


 自分よりも年上であろう女性に声を掛けられ、エルハムは空飛ぶ椅子の操作方法を教わった。けれど、とても簡単で声で見たい本などを伝えると自動で動いてくれるようだった。
 エルハムは、本屋の店主に教えてもらった本のタイトルを椅子に伝える。

 すると、椅子はふわりと動いて、ゆっくりと上へ上へと上がっていった。
 怖さも感じないぐらいのスピードであり、エルハムは少しワクワクしてしまった。けれど、あまりに上にいくので、途中から怖くなってしまいそうになったけれど、目的の場所に到着し、本棚の本が淡く光るのを見た瞬間にはそんな気持ちは忘れてしまった。


 どうやら下の方に新しい書籍が置いてあり、上に行くにつれて古い本になるようだった。エルハムはかなり上まで来ており、周りのお客さんもまばらだった。


 「カゲカワシンジ伝記、あったわ…………。」


 伝記は3巻まである本だった。1冊は薄いもので、大分古いものなのか表紙は色褪せ古びていた。

 エルハムは3冊の本を手にとって、数ページ捲ってみた。

 文字が並んでいる列を辿っていると、エルハムはある物を見つけた。

 この世界では見るはずがない、ニホンゴだった。


 「これだわ………やっと見つけた!」


 エルハムは嬉しさを隠しきれず、ふわふわと宙に浮かぶ椅子の上で、古びた本をぎゅっと抱き締めたのだった。