「エルハム様が私の洋服を着て商人としてチャロアイトに入るのです。そうすれば、誰にも邪魔されずに調べものが出来るのではないでしょうか?」
「………それはすごいいい方法ねっ!すごいわ、セイ!………あ、でも検問で私証を出してしまったら、エルハムだとバレてしまうんじゃないかしら?」
「…………これを使ってください。」
セイは次にスカートのポケットから小さな袋を出し、中からある物を取り出した。
それは、セイの私証だった。
「それは、とても大切な物よ!預かるなんて、そんな事………。」
私証は命の次に大切だとされている物だ。
これがなければ、生活するのを困難になる。そのため、この世界では私証はとても大事にされているのだ。それを他人に渡すというのは、家族でもしていない事なのだった。そのため、エルハムはセイの行動や考えに驚いてしまった。
けれど、セイはにっこりと微笑んだ。
それは事件以降には全く見られなかった、彼女らしい微笑みだった。
「私はエルハム様に助けられました。お貸しするぐらい何ともありません。どうか、微力ですがこれをエルハム様のお役に立ててください。」
「………じゃあ、私の私証をあなたに………。」
「それはお預かり出来ません。もし、チャロアイトで見つかってしまったときに、エルハム様本人だと証明出来るものがないと、大変なことになると思います。エルハム様が無事に帰ってきていただいて、私に返して貰えれば大丈夫です。」
「…………セイ。本当に、ありがとう。微力なんかじゃないよ。とっても助かる。」
「よかったです。それでは、今から少しの間青果店のセイ、ですね。」
いたずらっ子のように笑うセイを見て、エルハムもつられて微笑みながら、「そうね。」と、笑ったのだった。