「エルハム様、私、お店を続けたいのです。今は果物を見るのも怖いんですけど、両親と育てた果物達を作り続けたいって思ってます。あそこが思い出したくない場所だけど………思い出が沢山ある場所でもあるのです。」
 「そうね………。セイにとって大切なお店ね。」
 「はい。だから、一人でやって失敗するかもしれません。けれど、やってみてから決めたいのです。………まずは、果物を触って食べられるのうになるのが先ですけど。」


 苦笑を浮かべ、目を細めるとポロリとセイの瞳から涙が溢れた。
 すると、我慢していた涙が次々にこぼれ落ちていった。


 「あれ………私、いっぱい泣いたはずなのに。前を見ようとしてるのに、また泣いちゃうなんて………。」


 手でゴシゴシと目を拭くセイに、エルハムはゆっくりと近づいた。
 そして、優しく頭を包むように抱き締めた。


 「エルハム様っ!?」
 「泣きたいときには泣くべきよ。………でも、大切な話しを聞かせてくれてありがとう。今度、おじ様とおば様のお墓を作ってお祈りさせてね。」
 「……………お父さん………お母さんっっ!!わぁーーーっっ………。」


 タガが外れたかのように、涙を流し大きな声で泣くセイは、子どものようだった。
 エルハムはその気持ちを受け止めて、彼女を強く抱き締めた。

 彼女がそれで不安や怖さ、悲しみから解放されるわけではないのはエルハムもわかっていた。けれど、少しでも安心出来る時間を過ごし、癒されて欲しいと願った。


 それに、エルハムは彼女に感謝をしていた。セイが言った「失敗するかもしれない。けど、やってから決めたい。」という言葉が、胸に強く響いていたのだった。