突然部屋に入ってきたのは、エルハムは違った銀髪に恰幅の良い男だった。エルハムの実の父親でありシトロン国王アオレンだった。
 謁見終わりだったのか、青地の生地に金色の装飾や刺繍が沢山付いたマントを身に纏っていた。刺繍は、太陽とスターチスという花が描かれたエルクーリ家の紋章が施されているもので、代々受け継がれているものだった。


 「エルハム。大丈夫かい?酷い怪我をしたな………心配したぞ。」
 「お父様。………申し訳ございませんでした。」


 エルハムがベットから立ち上がろうとすると、王であるアオレンは、首を横に振ってそのままでいるように促した。


 「セリムから話は聞いた。エルハム。自分が何をしたかわかっているかな?」
 「………はい。自分の勝手な考えで人を助けて、他国であるチャロアイトの兵士や門番に迷惑を掛けてしまいました。そして、セリムや騎士団の皆様にも。」
 

 自分の立場はわかっている。
 一国の姫として、1つの言葉、1つの行動が問題になってしまう事。
 自分の勝手が、人々の迷惑になっている事。

 エルハムは理解していた。
 

 「わかっているなら何故あんなことをした。セリムは自分のせいだと言っていたが……おまえが少年を自分の判断で追ったのだろう?」
 「そうです。ですが、お父様。あの少年は弱っていましたし、この国や隣国の出身の者ではありません。自分の国でボロボロになっている人が居たのです。それ助けて何が悪いのでしょうか?」
 「………弱っていた、か。私の国の精鋭である騎士団を何人も倒してか?」
 「強い人間ならばその人は放っておいていいのですか?」
 「困っている人は他にも沢山いるだろう。目の前の人だけ助けては、差別になるとは思わないか?」
 「全ての人を助けられないからこそ、目の前人から少しずつ助けていく必要もあると思います。」


 王である父親とエルハムは、言い合いになってしまう。数人の使用人とセリムは、心配そうにやり取りを見つめていた。
 確かに勝手に城下町に行ったり、森に散歩に行ったするのは迷惑を掛けているかもしれない。
 けれど、エルハムは今回の事は悪いことをしたと思えなかった。
 彼は体や衣服がボロボロになるまで、さ迷っていたはずだ。そんな人を放っておけるわけはなかった。確か彼は強かった。けれど、途中でフラフラになるぐらいに疲れはてていたのだ。
 それをエルハムは知っていた。

 他にも助ける方法があったのかもしれない。けれど、あの時はああするしか方法がないと思っていたのだ。

 エルハムが強い視線で父親が見つめる。いつもは優しい 王もエルハムをキッ睨む。
 けれど、最初にため息をついたのは、父親であるアオレン王だった。