エルハムは、顔を赤らめながらも、セリムからゆっくりと体を離しベットから離れた。
約束とは言え、誰かと抱き締め合っているのをミツキに見られてしまったのは、とても恥ずかしく、そして気まずく感じてしまう。
「約束……?」
「えぇ………今、セリムと約束をしたの。だから、ほら……ミツキとも約束を交わすときにやっているでしょ?それをしていて………。」
「そうでしたか………。」
後ろめたい事など何もないはずだ。
それなのに、ミツキがエルハムを見ず、視線をそらしたのだ。それに、表情は暗く、怒っているようにも見えた。
「ミツキ………?」
「それで、おまえがここに来た用事は何だ?」
「………姫様に来客です。」
「そう………でも。」
「エルハム様、私はもう大丈夫です。看病ありがとうございました。また、お礼に伺います。」
「お礼なんていいのよ。じゃあ、セリム、無理はしないでね。」
まだ心配ではあったものの、いつまでもセリムの看病だけをしているわけにはいかないのだ。それに、彼自身も動けるようになったら、仕事をするつもりなのだ。
エルハムは、彼を応援する気持ちでセリムに笑顔で手を振ってから部屋を後にした。
そして、廊下でミツキに話しを掛けようとするが、それよりも先にミツキが口を割った。
「ミツキ………。」
「城下町の本屋の主人が来ております。」
「………ねぇ、ミツキ。さっきのは、本当にセリムと約束を交わしていただけで……。」
「それは先ほど聞きました。姫様が、気になさる事は何もないと思います。私も、危害を加えられてないのならば、2人で何をしようとも口出しをする権利はありません。」
「ミツキ、だから私はっ………。」
「店主がお待ちです。お急ぎください。」
ミツキは深く頭を下げながら、そう言った。
「もうこの話しはおしまいだ。」という事なのだろう。
エルハムはモヤモヤした気持ちのまま、廊下をトボトボと歩いた。
目の前を歩くミツキは、こちらを見ることもなく淡々と歩いている。