「団長の仕事は止めません。これだけは………誰にも譲りたくないのです。」
「セリム……でも、その傷には無茶よ。」
「私は、絶対に団長の仕事を休む事はしません。」
「………セリム。」
目の前に居るのは、いつもと変わらない立派に大人数の団員をまとめる、堂々とした若き騎士団長だった。先ほどまで、弱々しさは感じられず、彼の必死の思いだけがエルハムに伝わってきたのだ。
「私は幼い頃からエルハム様をお守りしてきました。そして、今があなた様の最大の危険が迫っているのです。そんな時に私が寝てられるわけがありません。………私がお慕いしているのはエルハム様です。どうか、エルハム様も変わらず守らせてはいただけないでしょうか?」
セリムの想いが、視線や表情、そして声で伝わってくる。
彼が本気の想いを否定する事など、エルハムに出来るはずはなかった。
「セリム………なら、約束して。少しでも辛いときは私やお父様、それに騎士団の皆を頼って。そして、夜更かしは禁止よ。」
「………ありがとうございます、エルハム様!」
「はい!じゃあ、約束。」
そういうと、エルハムは彼の傷に負担にならないように、優しく彼の体を抱き締めた。約束の証だ。けれど、セリムは驚いたようで、体をビクッと震わせた。
「エ、エルハム様!?これは子どもがする約束の証では……。」
「いいじゃない。子どもの頃はよくやったでしょ?」
「ですが、今は子どもではありません。」
「いいからいいから。はい、ぎゅー!」
「…………っ………。」
セリムは恥ずかしそうにしながらも、エルハムの言葉に従うために、ゆっくりと腕を伸ばして、エルハムの背中に手を回した。
ミツキよりもがっちりとした体。そこからは、懐かしい香りとぬくもりがあった。
そんな約束を交わしている時だった。
トントンッ。と、扉を叩く音がした。
そして、「エルハム様。こちらにいらっしゃいますか?」と、小さな声でエルハムを呼ぶミツキの声が聞こえたのだ。
エルハムは、抱き締めていた腕を離し、彼に返事をしようとした。
けれど、それよりも早くセリムが言葉を発したのだ。
「私だ。入れ。」
「セ、セリムっ!?」
セリムはエルハムの事を抱き締めたまま、そう言ったのだ。
エルハムは、セリムの腕の中から抜け出そうとしたが、その前に部屋の扉が開いてしまう。
エルハムはセリムに抱き締められたまま、ミツキの驚いた顔を見るしか出来なかった。