剣同士がぶつかる高い音が廊下に響いた。
エルハムはその場に立ち尽くし、震える手で胸のお守りを握りしめながら、ミツキを見つめる事しか出来なかった。
ミツキと同じように早い動きのコメットの男は自由自在に短剣で攻撃してくる。それを防ぎながらも、ミツキも隙をついては剣を躊躇いなく相手に向ける。けれど、コメットの男もそう簡単にはやられてはくれないのだ。
彼らの激しい声と剣音が耳に入る。
ミツキは強い。
それはわかっているが、どうしても心配になってしまう。
彼がまた傷ついてしまったらと思うと、息が止まりそうだった。
本当ならば、今すぐにでも助けを呼びに行きたかった。沢山の騎士団が警備しているはずなのに、この騒ぎで誰も来ないのはおかしいのだ。エルハムは、他の場所でも何か起こっているのではないかと思った。
それに、ミツキは「そこから動くな!」と言ったのだ。下手に動いて、彼の足手まといにはなりたくなった。
恐怖心と焦りで、どうしていいのかわからないエルハムだったけれど、ミツキの必死な表情を見て、焦るのを止めた。
ゆっくりと深呼吸をして、体と頭を落ち着かせた。
ミツキが目の前で必死に戦ってくれている。お互いに切り傷も増え、廊下の床には血の跡があった。
迷っている余裕などないのだ。
そう思ったエルハムは、何も言わずにミツキとコメットの男から背を向けて走りだした。
すると、侵入者がエルハムを追おうとしたのか、後ろから「おまえの相手は俺だろっ!」と言うミツキの声と剣が激しくぶつかる音が聞こえた。