そんな事を考えていると、廊下の所々にある火のランプで照らされたところで、何かがゆらりと動いたのがわかった。
 エルハムは、そちらに視線を向けると、そこからゆっくりと黒にマントに黒の上下の服。目だけ残した顔にも黒い布が巻いてある男が現れたのだ。
 それは、エルハムも見たことがある格好の人物。
 セイを襲ったコメットの一人だ。

 エルハムは突然の事に驚き、声を出せずに立ち尽くしてしまった。
 すると、そのコメットは持っていた短剣を持ち構えるのと、勢いよくエルハムの方に駆け出した。
 ランプの光で、鋭い瞳と短剣がキラリと光る。
 

 「………やっ…………っっ!!」


 武器を前にした相手に対して、自分はこんなにも弱いのだ。恐怖にしはいされ、ただ怯えて立ち尽くすしかない。そんな自分を蔑みながら、エルハムはギュッと目を瞑った。

 すると、何かがエルハムの後ろから飛んできたのか、コメットが「ちっ!」と低い声で何かを手で払った。その声を聞いて、目の前のコメットが男だとわかった。
 エルハムが目を開けて地面を見ると剣の鞘が転がっていた。それを見て、シトロン国の騎士団のものだとエルハムはすぐにわかった。

 後ろを振り向こうとすると、「エルハムはそこから動くなっ!」と、聞きなれた声が聞こえた。
 そこには闇に溶け込むような真っ黒な髪のミツキが、勢いよく飛び込んで来たのだ。
 右手にはすでに細長い剣が抜かれてあり、キラリと怪しく光っていた。ミツキは、怖いほどの表情でコメットの男を睨み付けると、そのままエルハムの脇を通り抜けて、男の短剣を弾き飛ばさん強さで剣を打ち付けた。


 キンッッ!