第24話「夜の訪問者」





 セリムの足音は聞こえない。
 当たり前だ。自分が命令をしたのだ。「今日の護衛はもういい。」と。

 エルハムがなるべくならば言いたくない事。それが、命令だった。
 権力を使って、自分の気持ちだけで命令をする。そんな人間にはなりたくないと常に思っていたはずだった。


 「それなのに………。」
 

 エルハムは暗い道を早足で歩きながら、後悔ばかりしていた。
 自分の事を思って心配してくれたセリムの気持ちなど考えずに、あんな事を言ってしまったのだ。彼はあんなにもエルハムを大事にしてくれているのに。
 

 「まだまだ、立派な姫にはなれてないわね………セリムに謝らないと。」


 エルハムはため息をついた。

 けれど、セリムの言葉にエルハムが傷ついたのも事実だった。
 セリムはあんなにもミツキを疑っているのだ。ミツキは突然異世界に来てしまい、困惑しながらも必死にここで生きようとしていた。そして、この国のために働いてくれている。
 どうでもいいと思っている国ならば、その国の姫を助けて傷を負ったりしないだろうし、毎日懸命に働こうとはしないだろう。
 
 騎士団でも、ニホンの剣術を教えるようになり、他の騎士団員は喜んでいる。

 どうして、セリムはそこまで彼を拒むのか。エルハムはわからなかった。

 どうやったら、セリムはミツキを認めてくれるだろうか。