そんな気分が良くなった日の夜だった。
エルハムは夜遅くまで本を読んでいた。もちろん、ニホンの事を調べるために資料室から持って来ていた本だ。
けれど、今回持ってきたどの本にも、ニホンの事が書かれている事はなかったのだ。
「…………なかなか上手くいかないものね。」
エルハムはそう呟きながら、本を閉じた。
少し喉の乾きを感じたエルハムは、部屋のランプを持ってから、部屋の扉を開けた。騎士団の人が見守っているのはわかっていたので、申し訳ないが水を取りに行くのに付き合って貰おうと思った。さすがのエルハムも夜中に城の中を一人で歩こうとは思わなかった。コメットが奇襲してくるのに、都合のいいタイミングになってしまうからだ。
「………あの、お水を飲みたいのだけれど。」
「エルハム様。まだ、起きていらしたのですね。」
部屋の前にいたのはもちろん青い正装と防具に身を包んだ騎士団員だった。金髪が美しく、そして、幼い頃から優しく語りかけてくれる彼が居たのだ。
「セリム。今日はあなたが夜の警備だったの?団長になってからは夜の警備はしていないんじゃなかったの?」
「そうなのですが、今日の担当の者が体調を崩したので。代わりに私が担当したのです。」
「そうだったの………団長自ら代役をするなんて。セリムは相変わらず優しいのね。」
エルハムはセリムに向かって微笑むと、セリムは少し恥ずかしそうにしながら、「そんな事は………。」と、口ごもった。