目を開くと、そこはいつもの三日月堂だった。
慌てて外に出て屋根を見ても、誰も居ない。

ー焼き台の団子は、全て焦げていた。ー

なあ、兄ちゃん

彼女がそう語りかける気がして振り向くと、そこにはあの日の少女が立っていた。

「串本さん、って言った方がいいかな」

「…………」

「なんで驚いてるのさ。」

彼女は飄々と語り、表の椅子に横たわって目を閉じている。

「…君は……何者なの?」

それに比べ、こっちは掠れた声で弱々しく語りかけるのみ。

「……何者も何も、ただの高校生。」

高校生。その言葉にこれ程衝撃を受けた事はない。
確かに童顔で背が低いが、その言動からは到底予想が出来ない年齢だった。

「……本当に?」

「やだなァ串本クン」

いつの間にか彼女は僕を串本クン、と呼んでいる。
否、そこは特に関係ないのだがー

「ミステリやファンタジーの読みすぎじゃない?……それとも、僕をいっぺん疑ってみる?」

僕を甚振るかのように笑む彼女は、何故か妙に恐ろしく見えた。

「……い、いや……別にそこまでじゃ」

「ならいい。海苔のやつを一つ」

「はあ……じゃなくて、かしこまりました」

団子を焼いて醤油たれを塗って海苔を巻く。
ただそれだけなのに、それだけなのに怖かった。

ーコイツは何者なのだろうかー

そう考えて焼いていた団子は、昔祖母が焼いてくれた団子にそっくりだった。