………………暑い………………

個人的に2月の団子屋は地獄と言っても過言ではないと思う。
勿論外は寒いのだが、ここは違う。
これでは灼熱の釜に入れられた罪人だ。

そんな事をぼんやりと考えていると、大声で現実に戻された。

「…団子屋の兄ちゃん!いい加減注文を聞いてはくれないか!」

目の前には華奢な少女が立っていた。
黒髪ボブにジャージ姿でどうやら苛立っているようだ。
幻覚だろうか、その瞳は金色に輝いていた。

彼女はくしゃくしゃの1000円札を差し出して言う。

「………………」

「……だから!団子ひとつ!」

「……あ、はい!す、すみません」

実は客は3ヶ月ぶりだ。
元来接客は苦手だから、緊張で自然と気をつけの姿勢になっている。

「ったく、だから最近の若者は……」

いや、君も充分若者なのだが…
とは言えず、ひたすらこの1本に集中する。

「……ご、この団子さえリピートしてくれれば…」

「兄ちゃん、聞こえてるぞ」

「あ、す、すみません!」

つい口に出るとかどこの漫画だよ…と後悔しつつ、危うく焦げそうになっていた団子を急いで拾い上げる。

「あ、あの、お味は…」

「醤油」

「は、はい」

「……この店潰れそうなのじゃろ」

「なんで知って……え、は?」

「あ…今のは忘れてくれ」

突然古風な口調になった少女は、団子に視線を向けて離さない。

ーまるで、初めて食べるみたいにー