「もしかしたら……」



少しして千島さんはゆっくりと話し出した。



「もしかしたら、ですよ? 本人から聞いたわけでも無いし、全然失声症には関係無いことかもしれません。あの子、見かけによらず……いや、見た目通りですね、強い所あると私は思ってるんで」



「いいよ、それでも」



「……1年の時、愛珠は成績が凄く良かったんです。担任にT大学を薦められるくらい。それが、1月くらいから段々成績が下がり出して」



良くある話だ、と思った。



「……まあ、それでも普通に良い成績なんですけど。でも担任はどうしてもT大に入れたい訳ですよ。自分の手柄になりますし」



「あははっ、随分はっきり言うね」



「だってもう丸分かりですよ? あの人が自分の為に生徒の合格実績を上げようとしてるの」



「まあ、たまに居るよな、そういう最低な教師」



「そうですね。……それで、愛珠は担任にとって期待の星だった訳で、よく呼び出されるようになりました」



「もしかして、今日も?」



「……まあ、多分、はい。愛珠だけなんです。他に愛珠より成績の悪い生徒はいくらでも居るんですけど、担任が成績を厳しく言うのは愛珠だけなんです」