《side隼人》



「じゃあ私戻りますね」



石橋さんが弁当箱を片付けて戻っていく。


智久は食べ終わって少しするとどこかに行ってしまうから今は愛珠と二人だ。



「最近は大丈夫か?」



「何が?」



不思議そうな顔を見せる愛珠。
何も変わらない。……変わっていないように見せているだけなのか。それとも……?


愛珠は変わらずに振る舞って居るけれど、俺はあの時の事がずっと頭の中にある。



『あっ、隼人? 着いたよ』



その後に聞こえた、怒鳴り声、慌てた愛珠の様子。


夏休み、テーマパークから帰る時、それから帰った後の電話での愛珠の様子がおかしかった。


あれは、あの怒鳴り声は愛珠の母親だろうか?



あれからずっと気になっている。
が、そんなこと聞くわけにはいかない。



「……クラスは」



「え、普通だよー?」



「そっか。あっ、今日教室まで迎え行くからな」



「へ? ああ、帰り? ありがと」



何か考えているように一点を見つめていた彼女がニコッと気の抜けたように笑う。



「じゃあ私もそろそろ行くよ。隼人もちゃんとサボらないで5時間目受けなよ?」



「それは約束出来ねえな」



「もう」



去っていく姿を眺めながら俺は徐々に眠気に支配されていった。