◇◇◇



家の玄関に手を掛ける。



─────



『早く、早く帰らないと……!』



『どうした……?』



─────



あの観覧車を降りた後、スマホが震えた。

特定のリズムを刻むバイブレーションに反射的に恐怖を覚えるようになっていた。



“高瀬晴美さんから位置情報を探索されています。拒否しますか?”



高瀬晴美。それは……。



『おい? どうした?』



『ごめん、もう帰らないと……』



『おい!?』




手が震えた。


何故だろう。前に同じようなことがあっても何も感じなかったのに。ここまでの恐怖は感じなかったのに。



何故、今はこんなにも怖いと思ってしまうのだろう。



隼人に気付かれないようにと思っても、どうしても顔に出てしまっていることが分かる。




隼人は何も聞かなかった。
ただ黙って、急に帰りたいとわがままを言った私を送ってくれた。

私にはそれが一番有り難かった。




――ガチャッ



なるべく音をたてないようにゆっくりとドアを開ける。


息が詰まる。重い重いこの空気。


息を潜めて、自分の部屋へと急いだ。