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家の玄関に手を掛ける。
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『早く、早く帰らないと……!』
『どうした……?』
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あの観覧車を降りた後、スマホが震えた。
特定のリズムを刻むバイブレーションに反射的に恐怖を覚えるようになっていた。
“高瀬晴美さんから位置情報を探索されています。拒否しますか?”
高瀬晴美。それは……。
『おい? どうした?』
『ごめん、もう帰らないと……』
『おい!?』
手が震えた。
何故だろう。前に同じようなことがあっても何も感じなかったのに。ここまでの恐怖は感じなかったのに。
何故、今はこんなにも怖いと思ってしまうのだろう。
隼人に気付かれないようにと思っても、どうしても顔に出てしまっていることが分かる。
隼人は何も聞かなかった。
ただ黙って、急に帰りたいとわがままを言った私を送ってくれた。
私にはそれが一番有り難かった。
――ガチャッ
なるべく音をたてないようにゆっくりとドアを開ける。
息が詰まる。重い重いこの空気。
息を潜めて、自分の部屋へと急いだ。