「大丈夫だった? お姉さん」
「んー……まあ寝てるだろ今頃」
降りてきた隼人に声をかけると、姉を気遣う表情の中に言葉を沈めた。
「多分男に振られたんだろ」
隼人は手の中にあるペアチケットを眺めて言う。
「えっ、あんなに美人で優しくて完璧な人なのに?」
「だよなー。なのに何でかさ、あいつはダメ男ホイホイなんだよなー」
何でだろう。ほんの一瞬、また声が出なくなったかと思った。
……多分、この時の微妙な心のさざ波は間違っていなかったんだ。
この時の私は知る由も無いが。
「……やだなー、隼人ってシスコン!?」
「はっ!? てめ……」
「ふふっ」
「これ、どーしようか。明後日なんだよなー……空いてる?」
「えっ、……うん、空いてると思うけど私関係ないのに貰うの申し訳ないし隼人が他の人と行きなよ」
「俺が友達居ないの知ってんだろ」
口を尖らせる隼人。
まあ確かに誰かとつるんでるのはあんまり見ないけどみんな隼人と友達になりたいと思ってるでしょうよ……。
自分が人気者なの自覚しましょ?
「あ、ほら中田先輩とか!」
「え、あははっ!」
吹き出す隼人。
え、私変なこと言ってないよね?
二人仲良いもんね?
「いや、ごめん。智久と男二人で行く位なら、俺は愛珠と行きたい。愛珠が良いの。駄目?」
私の顔を覗き込んで隼人が言う。
近い近い!
心臓持たないってば!
「う、うん……分かった……?」
「よし、決まり。楽しみだなー!」
喜ぶ彼の隣で、何故かいつまでも鳴り続ける心臓の音を聞かれないようにギュッとシャツを握った。