◇◇◇



駅に着き、いつも隼人が送ってくれる曲がり角まで来た。



「じゃあ、バイバイ」



いつものようにそこで別れを切り出す。



そして、「おう。またな」といういつも通りの言葉を聞いて歩き出すはずだった。


だけど。



「へっ!?」



自分の腑抜けた声にもう一度驚く。



私は、隼人の腕の中に居た。




えええ、ちょ、ちょっと待ってこれはどういう状況!?


いや確かに壮ちゃんの家で隼人が泣いたとき私は隼人を抱き締めたけど。


ていうかこの二日間、私達の距離は確かに近かったのだから、これもその内だろうと言われたらまあそうなんだけど。


でもあれは隼人が泣いてたからであって、ほとんど条件反射のようなものであって、今のこの状況とは全く違う気がする……。



「あの、はや……」



「ありがとう、一緒に来てくれて。そばに居てくれて、ありがとう」



「う、うん」



隼人の低くて綺麗な声が耳元でする。



体が触れているところから硬さを感じる。

細く見えるその体にもたくましい筋肉が付いていることを知り、改めて隼人は私とは違う性別なのだと思い知らされる。


いつの間にか隼人は私の中で、一緒に居て最も楽な存在になっていた。



少しした後、彼は私を解放した。



「じゃあな。また」



その美しい顔が見え、思わず心臓が跳ねる。



「う、うん。またね」



自分でも動きがぎこちないことは分かっていた。


けど。けどさ!?
男性に抱き締められた経験なんてほとんど無いんだから、仕方ないよね!?



私は目も合わせられずに背を向けて歩き出した。