……忘れもしない。6年前、俺が小6で、壮介が小3の時の7月31日。日曜だった。


その日は風がすげー強くて、大人しく家に居たんだよ。


そしたら、……最初は気のせいかと思ったんだけど、だんだんと外から聞こえる人の声が大きくなってきて、何だろうと思って外を見ると皆上を見上げてた。


その時、何だか急に壮介が死のうとしてたことを思い出した。


風のせいでみんなが何いってるか全然分からなかったけど、急いで屋上に行った。


……嫌な予感は的中してね、壮介が居たんだ。屋上の端っこに立ってた。


あと一歩踏み出したら死ぬって所に。



『壮介っ!? 何してんだよ!! 早くこっちに……』



『何って、自殺しようとしてるんだよ。見れば分かるでしょ?』



『お前、何で……』



◇◇◇


そこで隼人は深く息を吐いた。



「あいつはさ、あいつは……言ったんだよ……何も、……っ……」



次に続く言葉を恐れているかのように口を開いたまま何も言わない隼人。



私が重ねたはずの手は、いつの間にか隼人に握られる形になっていた。



「っ……」



私は無意識の内に隼人の背中に腕を回していた。



「あしゅ……」



僅かだけど、声が震えていた。
隼人が腕を私の背中に回す。



「……生きていても、何も楽しくなかったって。何も楽しくなかった、むしろ生きるのが苦痛だった。辛くて一年前の、あの時……死んでしまえばよかったって」



隼人の平静を装う声は、次第に低く、弱くなっていく。


「……お前のせいで………この1年間辛かったって。お前のせいだって言って、あいつは――目の前で飛び降りた……」



最後は、聞き取れないほどの小さな声だった。



「俺はあいつを守れなかった。いや、あいつは……俺のせいで死んだ……俺は、俺は………あいつを、壮介を――殺した」