◇◇◇



翌日。



いつも通りに病室へ向かうと中から少しヒステリックな声が聞こえてきた。



ドアが閉まっているため何を言っているのかは分からない。




ただ何となく入らない方がいい気がして、廊下で待機した。




――ガラッ!!



少し経って、中から女の人が出てくる。



少し、いや、かなりキツい目付きで俺を一瞥してから出口へヒールの音を響かせて去っていった。



え、俺あの人と知り合いだっけ? なんか怒らせることしたっけ!?


そんなことを考えるけど、俺の記憶にあの人は存在しない訳で。


まあ何でもいいか、と思いながらドアを開ける。



――ガラガラ




「っ……」




そこにあった光景に、思わず息を飲んだ。



――見たことのない表情。



表情と呼んで良いのか分からないほど無機質なそれ。


目は、まるで何も映していないように思える。



絶望や悲しみと言った、負の感情とはまた違う。





まるで、感情を持っていないような、そんな表情だった。




「高瀬さん」




なるべくいつも通りに声を掛ける。




彼女は一瞬で表情を変え、いつも通りに笑顔で俺を迎え入れた。




“今の人、お母さん?”



そう聞きかけて、言葉を飲み込む。



まだ、踏み込んじゃいけない気がした。