「え……?」
りーさんの声が病室の空気を揺らす。
「俺はお前の父親じゃねえ」
「そう思いたいならそう思ってれば?」
その人は、“彼”。
島崎孝彦(しまざきたかひこ)。
『俺好みにするの上手いなあ、お前』
あの彼だ。
「え、お父さん? 若くねえか?」
隼人が言う。
彼は34歳だ。
「あんたなの? 芽里さんを殴ったのは。――芽里さんのお腹の中の赤ちゃんのお父さんは」
「……」
無言が答えだった。
違うと思いたかった。
あの時――りーさんの部屋を見た時――部屋の荒れ方に見覚えがあると思ったんだ。
もしかしたら彼かも知れないと、脳がそう言っていた。
そして彼かも知れないと思ったとき、りーさんの元にまた来るんじゃないかと思った。
けど流石に私も次に起きることは予想出来なかったわけで。
「放してよ! ……ちょっと!」
そんな声と共に姿を現れたのは……。
「孝彦!」
「何でお前が……」
母親だった。
看護師さんや警備員の人に抑えられていた。
何故なら、手に刃物が光っていたからだ。
何故母親が今回のことを知っているのか、ここの病院と分かったのか、分からない。
彼も母親を見て心底驚いたようだ。
「ねえ、どういうこと!? ちゃんと説明して!」
「は……?」
訳が分からない、と眉を寄せる彼を置いて、母親がりーさんに詰め寄ろうとする。