隼人が、私の髪を撫でた。
「なあ、愛珠」
心地よい低い声が闇に沈んでいく。
「何?」
「あんまり一人で抱え込むなよ」
「え……?」
「もっと他人を頼って良いんだよ。……これからはちゃんと俺に相談しろ」
眠そうに半目になっているくせに、格好いい事を言う。
「うん。……ありがと」
「今日はちょっと眠すぎて無理だけど……ちゃんと聞くから」
隼人は本当に眠いらしく、滑舌は悪く、私の髪を撫でる手もゆっくりになっていた。
そして隼人が先に寝息を立て始め、それにつられて私も静かに目を閉じた。
隼人の腕の中は温かくて、何だか安心した。
私が隼人を抱いて寝た、いつかの夏の夜と逆の体勢だった。
久しぶりにゆっくり眠れた夜。
“幸せ”――そんな言葉が自然と脳裏に浮かぶ。
でも、そんな幸せが一瞬の儚い幻だと、この時の私は知る由も無い――。