もう、日が落ちていた。



ドアが開いて、隼人のお姉さんが入ってくる。




「愛珠ちゃ~ん! 大丈夫!?」




お姉さんはいつものハイテンションで、でもやっぱり私を気遣う言葉を口にする。



「……はい」



「隼人から連絡来てね、飛んできたの」



深いことは言わなかった。でも、きっと全部知っている。そんな感じの口調だった。



「こっちに来て」



そう言われてついていくと洗面台の所で化粧落としを貸してくれた。

化粧を落とし終わるとかつて自身の部屋であったであろう所――今はお姉さんはカフェの2階の自宅に住んでいる――に入っていく。




「うちに居る間はここの服なら好きに着て良いからね」



私にスウェット生地のラフな部屋着を貸してくれた後、そう言う。



「えっ、そんなずっとお邪魔するわけには……」



当たり前のように言う彼女に驚く。

するとお姉さんは真剣な顔になった。






「駄目よ。私が許さないわ。そんな危険な所に戻るなんて」







刺すように強い視線で私を見つめる。



「今日からうちに来なさい」



「……ありがとうございます」




とても有り難かった。

これからどうするのか、どうすれば良いのか分からなかった私に1つの逃げ道を作ってくれた。


まるで、前も後ろも断崖で逃げ場所など遥か数千メートル下の地面という状況で、空から――想像もしなかった場所から――手を差しのべてくれるような、そんな言葉だった。