その声は扉を開ける前から少しだけ聞こえていた。
話している内容までは分からなかった。
ただそれが泣き声だということは分かった。
「ずっと……」
麻友子の声だ。
思わず聞き耳を立てていた。
いけないことだと分かっていても、私の体はいうことを聞かなかった。
「……ずっと……好きだったんです……」
驚いている私と、納得している私と、焦っている私がいた。
麻友子が隼人を好き? いつから? ずっと?
『屋上で会ったの? ふーん』
麻友子は最初から、隼人に近付く為に……?
「……駄目だって思っても、抑えられなくてっ……苦しくて……」
「……大丈夫。大丈夫だから」
隼人のあやすような声がする。
大丈夫ってどういう意味? 隼人も麻友子が好きなの?
……私は何でこんなに焦ってるの?
この時の私は本当に気が動転していたのだと思う。
はやく水筒を取って教室に戻ろうと扉を開けてしまった。
「……えっ?」
隼人の腕が麻友子を包んでいた。
麻友子の頭を撫でていた手を止めて隼人が「愛珠……」と言う。
その声に反応してこちらを向いた麻友子の顔は涙に濡れていた。
「ごめん、ちょっと水筒忘れちゃって。すぐ出てくから」
二人を見れなくて、下を向いて素早く水筒を探して出ていこうとする。
「待てよ!」
隼人が言う。
私に何の用があるの?
口を開けばそんなひねくれたことを言ってしまいそうで、私は彼の言葉に耳を貸さずに戻ろうとする。
「おい、待てって! 愛珠!」
そんな声が背中を追いかけて来ていた。