「それは、結構……かなりキツいな」



「ですよね……まあ、これはほんとに関係無いかも知れません。でも私だったら耐えられなかったと思います」



「そうだよな」



確かに、かなりキツいことだと思う。
それに愛珠は真面目だから、聞き流すということも出来ないんだろうなあ。



「……これが原因では無くても、多分……成績が下がり始める原因が失声症の原因でもあるんじゃないかなって」




「なるほど。確かに、そうかもな」



その時期に何かあったというのは本当だろう。そう考えれば辻褄が合う。


いや……逆の可能性もあるか?

……ずっと何かに苦しんでいて、更に学校でも圧をかけられたことで壊れてしまった……とか。




「あれ? 隼人、迎えに来てくれたんだ。早いね」



その時、愛珠が帰ってくる。



「お、愛珠。今日はこっちに用があったからさ」



「そっか。じゃあちょっと待っててね」



彼女はそう言って帰る準備を始める。




「帰ろ、隼人」



「おう」




そのまま、教室を出た。


愛珠の後ろ姿を改めて眺めるとその気高さに驚かされる。

誰のことも寄せ付けない、踏み込むことを躊躇させるような強さ。だけどその中に、安易に触れてしまうといとも簡単に割れてしまうガラス玉のような繊細さを含んでいる。



『嫌わないで。お願い』



テーマパークで、俺の腕の中で愛珠が言ったその言葉が聞こえる。

泣き出しそうな、小さく震えた声がずっと頭に残っている。



「隼人? どうしたの?」



「ああ、いや何でもねえ」



「そう?」



「おう。行こう」



なあ、俺はどこまで踏み込める? どこまでお前に踏み込んで良い?

……お前は、何に苦しんでる?