「それはお互いのことを知った上で決めてもいいんじゃないか? 何事も決断は急ぐものじゃない」

まるで仕事中のような口調で言うと、早く話してと言うように私に手のひらを向けた。

これは私が生い立ちから話さないことには、納得してくれなそう。

諦めにも似たため息をひとつ零し、私は自分のことを玲子以外の人に初めて打ち明けた。

「お兄ちゃんから、私が久我の家に来た経緯をどこまでお聞きになりましたか?」

「妹ができたんだって嬉しそうに話してくれたよ。だが、理由は教えてもらえず、引き取ったとしか聞かされていない」

「そうだったんですね……」

お兄ちゃん、さすがにどうして私が久我の家に来たのかまでは、話していなかったんだ。

手にしていたグラスをテーブルに置き、夜景を眺めながら彼に言われた通り、生い立ちから話していった。

「私は物心ついた頃からずっと、父親の存在を知りませんでした。……いないと思っていたんです」

「……どういうことだ?」

怪訝そうに窺う彼に、苦笑いする。