「……以上です」

報告を終え腰を下ろすと、彼は頬を緩めた。

「織田からひとり立ちしたばかりにしては、数字を出せている。……よく頑張ったな。今後も期待している」

それは他の同僚と同じように、以前から掛けられたことのある言葉。

「……ありがとうございます」

小さく頭を下げると、次の同僚が報告していく。だけど私の耳にはなにも届かなかった。

上司と部下として接してくださいと言ったのは私だ。これまでだって、俊也さんは結果を出せたら、褒めてくれた。

苗字で呼ぶことだって当たり前のこと。他のみんなも苗字で呼び捨てだもの。

でも俊也さんはずっと、私のことを『姫野』と呼んでくれなかった。それなのに呼んだってことは、彼の中で大きな変化があったからだよね?

私とのことをすっぱり忘れ、姫乃さんのことを想い続けていこうと決めたのだろうか。

それとも新たに姫乃さん以上に愛せる女性との出会いに、前向きになった?