なに考えているんだろう、私。……もう自分には、俊也さんを心配する資格なんてないのに。

頭の中から俊也さんの存在を払拭して、始まった会議に集中した。

月に一度行われる商品部の定例会議では、情報交換がメイン。それと売り上げが落ちた店舗を検証し、どうしたら商品が売れるか思案したりもする。
各自、担当している部門の売り上げ報告もある。

順番に先月の売り上げを報告していく中、いよいよ次は私の番。

読み上げる書類を準備していると、俊也さんが口を開いた。

「お疲れ。今月もこの調子で頼む。……じゃあ次、姫野」

――え……? 今、俊也さん……私のこと、『姫野』って呼んだ?

信じられなくて、彼を見つめてしまう。

「どうしたんだ? 姫野」

やっぱり聞き間違いじゃない。俊也さん、私のことを『姫野』って言った。

動揺を隠せずにいると、隣の同僚が心配そうに声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

「あ……はい、すみません」

慌てて立ち上がり、バクバクとうるさい心臓を必死に鎮めながら書類を読み上げていく。

これまで一度も『姫野』と呼んでくれたことなどなかったのに、なぜ急に?