「芽衣さんはどこか行きたいところあります?」

「芽衣の行きたいところに行こう」

そう話す両親に、すかさずお兄ちゃんが突っ込んだ。

「俺の意見は聞かないのか?」

「昴だって芽衣さんの行きたいところに行きたいでしょ?」

「うっ……! それはそうだけど……」

一枚も二枚も上手なお母さんに、唸るお兄ちゃん。ふたりのやり取りにまた私は笑ってしまった。

悲しくて辛いことばかりじゃない、こうしてお母さんと打ち解け、本物の家族になることができた。それに玲子だっている。好きな仕事だってある!

失わないもの、逆に得るものだってあるんだ。

いつまでもウジウジしていたらだめだよね。俊也さんと離婚すると決めた以上、彼のことは早く忘れるべきなんだ。

それにこうして家族と温かい時間を過ごしていたら、いつか必ず忘れられて、自分のした判断に、これでよかったんだって思える日がくるはず。

そんな日が早く訪れることを願うばかりだった。



一ヵ月後の午前中。この日は十時からメーカーと商談だった。十三時に終了し、玄関口まで見送りに出た。

「それではぜひご検討いただけましたら幸いです」

「はい。本日はありがとうございました」

頭を下げて見送り、見えなくなったのを確認しオフィスへと急ぐ。