「……姫乃を失くしてから、初めてだったんだ。強く惹かれた女性は」

私もカップをテーブルに置き、彼の話に耳を傾けた。

「芽衣は誰でもいいから早く結婚したがっていただろ? どこの馬の骨ともわからない相手と結婚なんて、させたくないって思った。……同じ時間を過ごしていけば、芽衣のこと姫乃以上に好きになれると思ったんだ」

「俊也さん……」

次に彼が言う言葉を理解できて、胸がズキズキと痛み出す。

『好きになれると思ったんだ』ってことは、俊也さんは私のこと、姫乃さん以上に好きになれないんだよね。

「昨夜、芽衣に姫乃のことを知られて、自分でも驚くほど動揺した。……それと同時に思い知らされた。どうしても俺にとって姫乃は、今も変わらず特別な存在なんだって」

予想できていたのに、いざ俊也さんの口から聞くと辛い。

でもちゃんと話してくれてよかった。これで気持ちの踏ん切りをつけることができるから。

「俊也さん、私と離婚してください」

バッグの中から市役所から貰ってきた離婚届を彼に差し出した。