「大丈夫です、濡れちゃいますから」

「いいから」

私の制止を押し切ると、今度は私の額に手を当てた。

「熱があるじゃないか!」

「熱、ですか?」

あぁ、やっぱり熱があるんだ。さっきからフラフラするはずだ。

「どうして直帰しなかった?」

いつになく声を荒らげる彼に説明した。

「それは今日中に発注をかけなくちゃいけなくて……」

「それなら俺がやっておいたから」

本当に? だって私、俊也さんに頼んでいないよね?

びっくりして見つめてしまうと、彼は眉尻を下げた。

「部下の仕事状況を把握するのも上司の仕事だから。各店から上がっていた発注はかけておいたよ」

「そう、だったんですね。……すみませんでした」

特注の件がうまく片づいても、こうして俊也さんに迷惑かけてしまったなら意味がない。

申し訳ない気持ちでいっぱいになり、視線を落とした私に彼は深いため息を漏らした。

「バカ。……こういう時になぜ俺を頼らない? 芽衣にとって俺は上司としても、夫としても頼りにならない存在なのか?」

「――え」

顔を上げると、悔しそうに唇を噛みしめる俊也さんが目に入る。