懐かしい思い出に、思わず手が伸びる。
指先がヘルメットに触れようとして
ーブブッ、ブブッ、
背後から聞きなれたバイブ音がした。
振り返ると、まるで社長の席のような立派な机の上に、私のスマホがあった。
電話が来ているようで、バイブ音は鳴り続けている。
急いで手に取って画面を見ると、アパートの大家さんからだった。
…大家さんからなんて初めてだけど、何があったんだろう…
嫌な予感を抱きながら、通話ボタンをタップした。
「もしもし…」
『もしもし…?唯望ちゃん??』
いつものようによく通る大家さんの声がした。
「はい、どうしたんですか?」
『あのねえ、神谷さんが昨日の夜、お風呂沸かしたまま倒れちゃって、唯望ちゃんのお部屋が水浸しになっちゃってて…』
神谷さんは、上の階に住む1人暮らしのおじいさん。
最近体調悪いって言ってたっけ。
「神谷さんは…」
『今入院してるけど、大丈夫だって。
それでね、唯望ちゃんのお部屋が水浸しで、使えないのね。
だから貴重品とか取りに来てもらって、しばらくはお友達のお家とかにお世話になってもらえる?』
