どこか聞き覚えのある名前を思い出そうと

必死に頭をフル回転させる。

すると、いつの間にか衣蝶くんが目の前にいて


「ひゃぁ」

彼の長い腕がふわりと私を持ち上げた。

こ、これは、お姫様抱っこ?!

軒原くんがドアを開け、部屋の外へ出る。

コンクリートのシンプルな廊下を少し歩いて、

真っ黒なドアの前で止まる。

どうやらここが衣蝶くんの部屋らしい。

衣蝶くんが部屋の鍵を開けようとして、

私を抱えたまま、ドアに手を伸ばす。

ドアノブが高いところにあるみたいで、

私の背中を支える腕がゆっくりと高くなって、

衣蝶くんの顔が、

触れそうなほど近づいた。