麗奈は今、自分の手を取って跪く勉を見つめた。
「お似合いです、お嬢様」
目を細める勉を見て、頬を染めながら麗奈は頷いた。
「ありがとうございます、勉さん」
「いえ、僕は思ったことを口にしているだけです」
ここは、麗奈の住む崎本家にある大きな庭。広すぎて迷ってしまうほどだ。
「お嬢様に気に入っていただけて、光栄です」
「だって、素敵なんですもの。このワンピースは素材が良いんです」
麗奈は勉からそっと手を離し、くるりと一回転した。
「そう言っていただけると、嬉しいです」
静かに立ち上がった勉は、麗奈の手を撫でた。
「くすぐったいです」
「いいではありませんか。少しだけ」
少しだけですよ、と口を尖らせて言う麗奈を、勉は愛しく思った。
麗奈が着ているドット柄のワンピースは、勉が勤めるアパレルショップ『KILALA』の新作ワンピースなのだ。
ピンクの小さいドットが、オレンジ色のワンピースとマッチしていて、素材は柔らかなシフォン生地。適度な透け感が男には堪らない。
勿論、女心をがっしりと掴む自信作である。袖口のフリルがまた、女心をくすぐるのだ。

「でも、良いんですか?私が真っ先にこのワンピースを着るだなんて…」
「いいんですよ」
勉は笑った。
「この服は、デザイナーに頼んで作ってもらったんですよ。お嬢様のためだけに」
「私の、ために…?どうして…」
「貴女の笑顔が見たい。ただそれだけです」
勉の熱い視線に耐えきれなくなったのか、麗奈は目を逸らした。
「デザイナーに頼んで作ってはもらいましたが、僕も立ち会いました。僕がラフ画を描きましたからね」
勉は自信たっぷりに言った。
「えっ、そうなんですか…?勉さん、すごいです」
麗奈は目を輝かせていた。
「いや…そんなにすごくないですよ。僕は、デザイナーになりたかったんですけどね」
勉が寂しげに笑った。
「そうだったんですか…?でも、勉さんはすごいです。店長さんですもの」
「すごくなんかないですよ。たまたま、ですよ」
「そんなことありません。勉さんは…皆さんから慕われて、信頼されています。すごいなあって、いつも思っているんです」
麗奈はじっと勉を見た。
「そんな風に言ってくださるのは、お嬢様だけです」
「どうしてですか?勉さんは頭も良くて、お洒落で多才な方だと私は思うんです。才能があるんだなあって私、尊敬しているんですよ。優しくてかっこい…」
かっこいい、と言いそうになり慌てて口をつぐもうとした麗奈だが、勉は麗奈を思い切り強く抱き締めた。
突然のことに驚き、麗奈は声が出なかった。
「お嬢様…それ以上は勘弁してください」
「ごめんなさい…」
麗奈が謝ると、勉はふっ、と笑った。
「勉さん…?」
「尊敬、では困りますね」
「だめですか?」
「ええ。僕を好きになっていただかなくては」
麗奈は勉の胸に手を置いて、勉の顔をじっと見た。
「あ、あの…」
「僕の気持ちは、とっくに決まっています。お嬢様も…お分かりでしょう?僕がどれだけお嬢様を愛しているのか…この三ヶ月を思い返してみてください」
麗奈は勉から身を離し、鎖骨の上でキラリと光る金のネックレスに指で触れた。