『わたし、大知さんが羨ましくて』
「は?大知が羨ましい?」
拓真は、どういうことだ、と低い声で言った。
『だって、大知さん、拓真さんにとても可愛がられていて』
「勘違いするなよ。そういう変な趣味とかないからな」
『ふふっ、わかってます』
「じゃあ、なんで羨ましいなんて」
『だって、大知さんのこと壁ドンしてたんですもの。わたしも壁ドンされ、たい……』
麗蘭は拓真から目を背けた。

「ふうん………」
麗蘭の目が泳いだ。
「壁ドンされたいの?」
麗蘭は俯いた。
「……なあ、麗蘭……」
拓真はさっきよりも低い声で、麗蘭に囁いた。
『!』
麗蘭が顔を上げると、麗蘭は壁に押し付けられていた。麗蘭は驚きのあまり首を横に振っていた。

(ど、どうしよう、怖い)

自分で言ったことなのに、拓真に迫られると怖い、と麗蘭は思ってしまった。

「怖いだろ」

麗蘭が目を瞬かせると、拓真は唇を噛んだ。
「麗蘭にはまだ早い。怖いのに無理するな」
拓真の言葉に、麗蘭は悲しくなった。

(ひどいよ、拓真さんひどい)

そう思うと、麗蘭は床に座り込んでしまった。

「麗蘭…?大丈夫か?」

拓真はしゃがみ込んだ麗蘭の目の前に座った。

「ほら、だから言っただろ。無理するなって。無理するから疲れてしまうんだぞ」

(ひどい。そんなこと言わなくても…)

麗蘭は、拓真の言葉に傷ついた。
拓真に甘えようと思っていたのに、
何だか気が削げてしまったな、と麗蘭は思った。

麗蘭はすっくと立ち上がった。

「ん?麗蘭、どうした?」

麗蘭は拓真から離れて再びベッドに潜り込んだ。
「麗蘭。食べよ」
拓真が麗蘭のところへ粥を持ってきた。麗蘭は黙ったまま、粥をじっと見つめた。

拓真が、麗蘭の口へ粥を持っていこうとスプーンを持ったが、麗蘭は阻止した。震える右手で、拓真を拒絶した。
「なんだよ、どうした?」
不安そうに見つめる拓真をよそに、麗蘭は震える右手でスプーンを掴み食べようとした。
「麗蘭、やめろ。無理するなと言っているだろう」
拓真の言葉を聞き流し、麗蘭はスプーンで粥を食べようとする。

『……!』

麗蘭の手には力が入らず、スプーンの中の粥ごとシーツに零れた。

「だから言っただろ?麗蘭には無理だって」

(どうしてそんな言い方するの?
そんな言い方しなくてもいいじゃない。なんで、なんでそんなこと、言われなきゃいけないの…?)

麗蘭は唇を噛み締めた。