「麗蘭は…もう、戻ってこないのかもしれないな」
拓真が弱々しく呟いた。
「何言ってんすか!そんなことないっすよ」
「大知…」
拓真は溜息をついた。
「でも、もう一年も経ってしまった。
さすがにもう……」
「諦めなければ夢は叶うって言うじゃないっすか!」
健も、拓真を励ました。

レストランに来客を知らせるベルが鳴り響く。
「誰だ?営業時間ギリギリに」
拓真はそう言って玄関へ向かった。

玄関から入ってきたのは、ピンク色の髪をしたショートヘアの女性だった。
ボブヘアで、前髪は眉が隠れるくらいで綺麗に切りそろえられている。
目はぱっちりとしていて、優しげな雰囲気のタレ目が印象的だった。
「はい、どちらさま……!」
拓真は、目を見開いてピンク色の髪の女性に駆け寄った。

「うそだろ…?麗蘭…?」

髪色と髪の短さは違うものの、顔は麗蘭そっくりだった。

「麗蘭、だよな?」

麗蘭は頷いた。

「麗蘭…ああ、麗蘭…ッ!」

拓真が麗蘭をぎゅっと抱きしめた。
強く強く。

「麗蘭…麗蘭…ああ、会いたかったよ…やっと会えた……もう離さない。誰にも渡さない」

拓真は麗蘭を抱きしめ、なかなか離さなかった。麗蘭は話せないようで、麗蘭の綺麗な声が聞けないのは悲しい、と拓真は思った。しかし、麗蘭が帰ってきてくれただけで嬉しいと、心からそう思った。

しかし、麗蘭はとても弱っていた。
麗蘭は声が出ないだけでなく、他にも大きな荷物を背負っていた。
「麗蘭…」
拓真が麗蘭を離し、手を握ろうとしたが、麗蘭の両手には包帯が巻かれていた。拓真は不思議に思いつつも麗蘭の包帯を取った。綺麗な白い手が顕になった。
「麗蘭、握って。手を握ってほしい」
拓真の願いに答えたい麗蘭だったが、麗蘭の両手が言うことを聞かない。
「麗蘭…?」
麗蘭は手を動かして拓真の手を握ろうとするも、なかなか動かすことが出来ず、麗蘭の手は宙に浮いたまま震えていた。
「動かないのか…?」
麗蘭は頷いて自分の手を見た。
麗蘭の両手は、動かなくなっていた。
自力で動かそうとしても、動かすことが出来ない。無理にでも動かせば微かに動くが、ほとんど動かせない。
無理にでも動かしてしまえば、体力を消耗し意識を失ってしまうという。
食欲もなく、たくさん食べることが出来なくなっているということもわかった。麗蘭は思っている以上に弱っていた。

拓真は麗蘭から、今までどこにいたのかと尋ねた。
『わたし、冥界にいたの』
「冥界?」
『死後の世界』
「死後の、世界…」
『拓真さんとは、もう会わないつもりでいたのに』
「麗蘭…」
麗蘭は、拓真に抱きしめられながら口を動かして語った。
『でも、わたし拓真さんがすごく好きなんだなって。諦めきれなくて』
戻ってきちゃった、と麗蘭が言った。
「麗蘭……」
拓真の声に顔を上げた麗蘭は、拓真に唇を塞がれた。目を瞬かせる麗蘭に、拓真は笑みを零した。
「おかえり、麗蘭」
『…!ただいま、拓真さん』
「おかえり、麗蘭…おかえり、おかえり……」
拓真は何度も麗蘭の唇を奪い、優しく優しく口付けた。
「ん……っ、はあ……」
拓真の甘い吐息が麗蘭の顔に吹きかけられた。麗蘭は顔を真っ赤にしていた。