「そうだったんだ。わたしのことが、好きじゃなかったんだ」
「ち、違います姐御!若は、姐御のことが大好きっすよ!」
大知が叫んだ。
「いいなあ、そんなに…拓真に愛される蘭子さんって……」
麗蘭の声は、震えていた。
「あ、姐御…」
大知は呆然としていた。
「泣いてんすか…?」
健は慌ててティッシュ箱を差し出した。麗蘭は黙ってティッシュを二、三枚取って涙を拭った。
「拓真の中には、蘭子さんがいる。わたしじゃない。拓真は、蘭子さんが好きなの。蘭子さんに似ているわたしが…わたしのことなんか、好きじゃない」
「そんなことないっすよ、姐御。
姐御は愛されてるっす。それは、姐御だってわかってるでしょう?」
「大知…姐御も混乱してんだよ」
「でも…」
「蘭子さんが生きてたら、わたしのことなんて眼中に無い」
「そんなことないっす、蘭子様と姐御は似てはいるけど、同じじゃないっす」

「どこが違うっていうの」

麗蘭は溢れ出す涙を隠そうと、震えた声で言った。麗蘭は手に持っていたティッシュを顔にくっつけた。ティッシュは小刻みに揺れ、しっとりと濡れていた。


「それは…」

大知が言葉に詰まった。
健も、黙って床を見つめていた。

「姐御。若の愛は、間違いなく姐御に注がれてる。蘭子様のことは、良い思い出として残ってるんすよ」
「大知の言う通りですよ、姐御。若は、姐御を心底愛してる。それだけは、信じてあげてください」
「……うそ。拓真は蘭子さんに似たわたしを好きになった。蘭子さんを重ねてるの、わたしに。こんなわたしなんか、愛されるわけなんてない」
「姐御…!」
健と大知が叫んだ。
しかし、麗蘭はその声を振り切るように外へ走っていった。

「わたしは、親の借金のかただから。
拓真は…拓真さんは、優しいからわたしを助けようとしてくれただけ。愛なんてない。蘭子さんにはかなわないの。馬鹿みたい、わたし、一人だけ拓真さんを好きになって」


麗蘭が去り際に残したその言葉だけが、健と大知に重くのしかかった。