「姐御!」
健が麗蘭に駆け寄った。
今、麗蘭と健と大知は、拓真の経営するレストランにいる。
営業時間は終了し、ゆっくりとした時間を過ごしているところだ。
「ねえねえ、二人に聞きたいことがあるの」
「なんっすか?俺らができることなら、なんでも言ってくださいよ、姐御」
「わたし、知りたいの。拓真が堅気になるまでどんなに大変だったのか」
麗蘭がそう言うと、健と大知はニヤリと笑った。
「へえ、姐御…若のこと呼び捨てだ」
「いやー、若、舞い上がってましたよ。拓真って呼んでくれたって」
麗蘭は思わず頬に触れた。
火照った頬はとても熱かった。
熱があるんじゃないかと思ってしまうほどに。

拓真は今、買い出しに行っていていなかった。
「いやー、若は本当に情熱的でねえ」
大知はふっ、と笑った。
「そうそう。若はああ見えて一途なんすよ」
「ああ見えてって…」
麗蘭もくすくす笑った。
「なかなか、抜けられなかったんすよ」
「抜けられなかった?」
どういう意味ですか、と麗蘭は健に尋ねた。
「何せ、あととり息子が組を抜けるだなんて言い出すんですからね。親としては、許せることではないでしょう」
「そうですよね…」
麗蘭は俯いた。
「でも、若の決意は固かった。こうと決めたら考えを変えない若のことだ。若のご両親も、さすがに折れましたね」
「そうなんすよ、姐御。まじで若はかっこいいっす!男の中の男って感じっす」
大知は興奮気味に話した。
「組を抜けてからというもの、若は姐御と一緒になるために血が滲むような努力をなさってきたわけですよ!さすがは我らの若ですよ」
大知は深く頷きながら語り始めた。

「なかなかね、昔のことを話してくれなかったんです、拓真」
麗蘭は寂しげな顔で言った。
「姐御」
「なんですか?大知さん」
「俺らには敬語なしでいいっすよ」
「でも…」
「そうそう、大知の言う通り。姐御は若だけの姐御なんだし、姐御は俺らにとって最高の姐御ですから!」
「健、なんかよくわかんねーこと言ってるけど」
「い、いや、まあいいだろ!」
健は口を尖らせた。
麗蘭は思わず笑みを零した。
「それじゃあ、敬語なしで、よろしくね」
麗蘭が大知と健を見て微笑んだ。
「わあああ〜、やば。姐御めっちゃ可愛いっす。癒されるっす」
「おい、大知。若が来てたらやばいぞ。またしばかれる」
「しばかれる?」
健の『しばかれる』という言葉の意味が分からず、麗蘭は健にその意味を尋ねた。
「いや、姐御は知らない方がいいっす」
「でも…」
「それでですね、姐御」
大知が深呼吸をしながらゆっくりと言った。