「よかったのか?行かなくて」
拓真が麗蘭に言った。
「はい、いいんです。拓真さんと一緒にいる方がいい」
麗蘭はにこっと笑った。
麗蘭は、和哉の誘いを断り拓真と過ごすことを選んだ。
「ならいいけど」
拓真はそう言いつつも、不安は消えなかった。やはり、麗蘭は和哉にまだ未練があるのではないかと。
「拓真さん」
「ん?なに?」
「拓真さんは…夢ってある?」
「夢?あるよ」
「なんですか?」
麗蘭が首をかしげながら聞くので、
拓真は麗蘭が何を考えているのだろうか、と考えた。
「麗蘭は?僕の夢は何だと思う?」
「うーん、」
麗蘭は左頬に左手を添えて考えていた。
「拓真さんは、このお仕事をしているから、料理人になりたいって思ってたの?」
「うん、まあそうだな。自分の作った料理を美味しそうに食べてくれて、お客様が喜んで帰っていくのを見ると、ああ、よかったなあって思うよ」
「そうですよね。拓真さん、料理上手だから美味しくてたくさん食べちゃいそう」
麗蘭は顎に人差し指を当てて言った。
「ま、大変だったけどな」
「そうですよね…堅気になるってだけでも大変だったでしょ?」
「ああ。まあな」
拓真はそれ以外、堅気になる時のことを話そうとしなかった。

「麗蘭は?」
「えっ?わたし?」
「麗蘭の夢は何?」
「わたしは、ライターになりたいんです。エッセイストにもなりたいなあ」
「ふーん」
拓真は興味なさげに呟いた。
「僕にはよくわかんないけど」
「ですよね…」
麗蘭はしゅんとしぼんでしまった。
「いいんじゃねえの?」
「えっ?」
俯いていた麗蘭は、拓真の意外な言葉に顔を上げた。
「夢があるってことはいいことだよ。夢がなくて悩んでいる人もいるんだから、叶うかどうかは別にしても…夢を持つことは大切なことだろ」
「拓真さん……」
麗蘭は拓真をじっと見ていた。
「麗蘭」
「なんですか?」
「そろそろさ」
拓真が麗蘭の両肩をがっしりと掴んだ。麗蘭はどきっとして顔を赤く染めた。
「いい加減、拓真さんと呼ぶのはやめてくれ」
「どうすればいいですか?わたし…」
「拓真と呼べ」
「そんな、呼び捨てだなんて…」
「拓真と呼べと言っているんだ」
それと、敬語もなしだぞと言う拓真。

「んんっ、やめて、拓真…」
拓真がいつの間にか麗蘭の腰に添えていた手を、上下に動かしていた。
「ん、よくできました」
拓真は満足そうに口角を上げた。
「もう…」
拓真は麗蘭をしっかりと抱きしめた。