「はい、チケット」
「ありがとうございます…」
麗蘭は嬉しそうにチケットを握りしめた。
「ずいぶん、めかしこんだんだな」
「そりゃあもう、当たり前でしょう」
麗蘭は無邪気に笑った。

(そうか…そんなにあいつとのデートが楽しみなんだな…)

「楽しんで行ってこいよ」

「え?」
麗蘭は目をぱちぱちと瞬かせた。
「どういうことですか?」
「いや、だから。佐久間さんと行ってこいよ」
「えっ?拓真さんと一緒じゃないんですか?」
「え?」
拓真と麗蘭は、しばらく見つめあって目を瞬かせた。
「拓真さんとわたしとで行くんじゃないんですか?」
「……違う」
「どうしてですか?」
「佐久間さんと行くのが楽しみなんだろ」
「違います!わたし、拓真さんとデートだって思って思い切りお洒落したのに…」
麗蘭の声がだんだんと沈んでいく。
麗蘭の顔も曇り始めていく。
「えっ、佐久間さんと会えるからお洒落してるんじゃなくて?」
「違います!わたし、わたし…拓真さんと一緒だと思ったから頑張ったのに…」
「麗蘭…」
麗蘭は顔を両手で覆った。
ひどいわ、と麗蘭は泣いてしまった。
「ご、ごめん麗蘭。ごめん…」
「お仕事が忙しいから?」
「いや、忙しくても調整はできる」
「じゃあどうしてなんですか?」
「それは…ほら、話も尽きないだろ?」
「嫌です。わたし、拓真さんとじゃなきゃ嫌です。行きません!」
「我儘言うなよ…」
麗蘭は拓真に抱きついて離れない。
離そうとするも、絶対に離さないと言わんばかりに、麗蘭は拓真にぎゅっと抱きついていた。
「麗蘭……でもな、佐久間さんは会いたがってんだよ」
「嫌です!わたし拓真さんと離れたくない」
「麗蘭……」
拓真を見上げる麗蘭を見て、拓真は麗蘭の髪を撫でた。
「はあ…こんなに髪を巻いて」
「いやですか?やっぱり、ストレートがいいですか?」
「……巻いてる方が、可愛い…」
「拓真さん…」
よかった、と麗蘭は頬を染めながら言った。
「そのネックレスとイヤリング」
拓真は、麗蘭がつけていたネックレスとイヤリングに目を落とした。
「…似合ってる」
「嬉しい…」
麗蘭は恥ずかしくなって目を伏せた。
「似合うに決まってる。…麗蘭のために僕が選んだんだから」
「拓真さん…」
麗蘭は、拓真にネックレスとイヤリングをプレゼントされていた。
銀色の月の中に小さな星がついているネックレスで、麗蘭が欲しいと言って拓真が買ったものだ。イヤリングは何個か買ってもらったのだが、拓真に選んでもらい買ってもらったのだ。
「今日は……パールなんだな」
「はい、お気に入りなんです。どうですか?」
「似合う」
照れる麗蘭を強く抱き締め、拓真はある思いを胸に秘めていた。

(何も、あいつに絵を書いてもらわなくてもいい。確かにあった方が価値は上がるかもしれないが、それより大事なのは贔屓にしてくれているお客様だ。
それに……あいつに、麗蘭は絶対に渡さない。もう二度と離さない)

「拓真さん、苦しい」
「ごめん」
「ううん、嬉しかったです」
麗蘭は拓真を見上げて幸せそうに微笑んだ。