「それから十年後の今、僕は三十五になって、レストランを経営して五年が経ちました。麗蘭のことは一時も忘れることはありませんでした。麗蘭を、僕は探しました。でも、なかなか見つからなくて」

拓真は、麗蘭を必死で探したが見つからず悶々とする毎日を過ごしていた。
しかしそんな時、麗蘭の父親から娘を買って欲しいと頼まれ、一度会ってみると、すぐに麗蘭だとわかった。
「麗蘭……」
顔を上げた麗蘭は、拓真に怯えていた。
「麗蘭、よかったな。可愛がってもらうんだぞ」
父親は麗蘭を置いて去っていった。
「麗蘭……どうしたんだよ」
「だれ…??」
麗蘭はがたがたと震えだした。

「拓真だ」
「えっ…?」
「覚えてないか?拓真だよ」
ヤクザの息子の拓真だ、と言うと麗蘭は目を丸くして言った。
「えっ?拓真さんなの?」
「ああ」
「拓真さん…」
麗蘭は顔を赤くしていた。
拓真は麗蘭をホテルへと連れ込み、
麗蘭をベッドに押し倒した。
麗蘭はあまりの怖さに、泣き出してしまった。
拓真は、麗蘭を押し倒してただ、何をするということもなく、優しく抱きしめ手を握っただけなのだが、麗蘭を怖がらせてしまった。
離れようと思えば思うほど離れづらくなって、強く抱きしめてしまった。
麗蘭の震えは止まらず、拓真は麗蘭をぐっと起き上がらせ引き寄せた。
「ごめん。……麗蘭。麗蘭のことは、ずっと好きだった。今も好きだ。…だから、付き合って欲しい。婚約者として」
「……!」
麗蘭は拓真の不意をついて逃げ出した。
「麗蘭…!!」
拓真の声に耳も貸さず、麗蘭は走った。




「そしてここに辿り着いたのね」
桃は言った。
「はい、そうなんです」
「でも、拾ってくれたのが佐久間さんで良かったわよね」
「桃さん?それってどういうことですか?」
拓真が眉を寄せた。
「佐久間さんは、麗蘭ちゃんの彼氏なのよね」
「か、彼氏…?」
拓真は、麗蘭を見つめた。
「ごめんなさい」
麗蘭は、拓真に頭を下げた。
「そうか…彼氏が、居たんだな」
拓真は麗蘭を離した。麗蘭は、拓真に離れされたことに寂しさを感じていた。
「ごめんな。彼氏以外の男には触れられたくなんかないよな」
「拓真さん、違うの…」
「いいんだよ。僕以外の男を好きになるかもしれないっていう不安は、どこかにあったんだ。でも、麗蘭はきっと、僕のことだけを考えてくれてるって、鷹を括ってた。本当、馬鹿だな。十年も前の約束だなんて、本気になんてしてないよな」
拓真は寂しそうに笑った。