今日の天気は、とても風が唸り声を上げるほど強かった。嫌な予感がする、と麗蘭は思った。

「あら、誰かしら」
営業時間外に、ドアをどんどんどんと叩く音に驚き、桃がドアを開けると、そこには二人の男がいた。
「ちょっとお尋ねしますが」
そう言って、二人の男は半ば強引に中へ入り込んだ。
「ちょ、ちょっと困ります!」
もう営業時間は終了しました、と桃が叫んでも、二人の男はびくともしなかった。
麗蘭は、図々しくも入ってきた二人の男を見るなり立ち上がって、五歩ほど後ずさった。

「なんで……」

麗蘭は体の震えが止まらなかった。

「麗蘭……やっと見つけた」

一人の、がっしりとした体格のグレーの髪をした鋭い目の男が、麗蘭を見た途端柔らかく微笑んだ。

その男は、麗蘭のもとへ駆け寄った。
麗蘭は怖くて、動けなかった。

「麗蘭、探したんだぞ…よかった、無事で」
「や、やめてください…拓真さん」
麗蘭は震える体のまま、更に拓真という男からの距離を遠ざけようと後ずさった。
「怖がらせて、悪かった。でも、僕は麗蘭のことが大切だから」
「やめてください、そんな嘘」
「嘘じゃない。すごく、探した」
拓真は、麗蘭を優しく抱きしめた。
「お願いだから、もう僕から離れないでくれ。麗蘭がいなくなったと思うと、僕は何も手につかない」
麗蘭の震える背を、優しく拓真は撫でた。
「麗蘭。もう逃げようと思わないことだな」
もう一人の男がそう言い放つと、麗蘭は更にがたがたと震えだした。
「麗蘭、大丈夫だからな。…お父さん、怖がらせちゃいけませんよ」
「お前は、俺の借金のかたなんだからな」
「ど、どういうことなんだ?」
春彦は顔を青ざめて言った。
「俺は麗蘭の実の父親だ。借金のかたにこいつを拓真さんに売った」
「な、なんて酷いことを…!」
桃が叫んだ。
「僕は…麗蘭を買うことには反対だった。でも…麗蘭を手に入れられるのなら、その話に乗ってもいいかなと思ったんです」
「それでもあんたたちは人間か?」
春彦はカウンターをどん、と叩いた。

「麗蘭に、僕は一目惚れしたんです」
えっ、と小さく麗蘭が声を上げた。
「麗蘭に振り向いてほしいがために、卑怯な手を使ってしまったことで…麗蘭は僕から逃げた」
拓真の、切ない声が麗蘭に響いた。
「卑怯な手というのは…嫌がる麗蘭を、無理やり抱きしめたり手を握ったり…それも強く握ってしまったから嫌われるのも無理はないんだけど」
「はは。それに、若は情熱的ですからね」
麗蘭の父親の播磨が言った。
「若?」
春彦が拓真を見た。
「…ええ、僕は、元ヤクザの若頭でした。だから今でも、若と呼ぶ部下はいます」
「なんだと!?ヤクザの若頭!?」
「申し訳ありません。ですが、ヤクザだったのは昔の話で…もう堅気になったんです。それで…レストランを経営しております」
「ふん、そんなの信じられんな」
「麗蘭に初めて会ったのは、僕が25歳でやんちゃだった時です」
そう言って、拓真は麗蘭の背中を撫でながら話し始めた。