「今日は随分、繁盛してましたね」
美優が桃に笑顔で言った。
「そうねえ、ありがたいことよ」
「ああ、そうだな」
「でも、大変だったでしょ?みーちゃん、あちこち走り回ってたし」
「えー?そんなに走り回ってませんよ」
美優は抵抗した。
「いいや、してたな。走り回る子供みたいに」
「春彦さんまで!ひどい!」
美優が頬を膨らませた。
カランコロンとドアの鈴が鳴る。
「あ!守くんっ!いらっしゃい」
美優は嬉しそうに守のもとへ駆けていく。
「あらまあ。仲の良いこと」
「わかりやすいなあ、二人とも」
春彦が美優と守を見て微笑んだ。
「迎えに来たよ。帰ろうか」
「うん!帰るっ」
桃と春彦がにやにやしていたのに、美優がやっと気づいて照れていた。

帰る支度を整え、美優と守が帰ろうと思いドアへ向かおうとしていると、ドアが荒々しく開いた。
「あ、あの…もう閉店時間なんですけど」
美優がそう言うと、そのドアを開けた主はこう言った。

「あの…僕、この娘、拾いました」

美優と守は驚きのあまり互いに顔を見合せ、桃は手に持っていた皿を落としたが、春彦が受け止めた。
営業時間終了間際に入ってきた、この謎の青年。その青年は可愛らしい女性をお姫様抱っこして立っていた。

一体、この青年は何者なのか。
そしてこの女性は誰なのか。

戸田夫妻と美優、守には全く見当がつかなかった。



「あのう…失礼ですが、どちら様でしょうか?」
桃が不思議そうに尋ねると、青年ははっとして、自分の名前を名乗った。
「申し遅れました。僕は、佐久間 和哉と申します」
「それで…その、抱えている女性は…」
春彦が佐久間を見て言った。
「ああ。この喫茶店の前で倒れていたんです。それで、このお店のドアを開けさせていただきました」
「なるほど」
春彦は頷いた。
「それにしても、この娘拾いました、ってなんですか」
守は意味がわからないとばかりに首を傾げた。
「あなたは?」
「関係者です」
「そうなんですね」
青年は、女性をカウンター席の椅子に座らせて、ぐっすりと眠っている女性の隣に座った。
桃と春彦の立つカウンターの向かい側に青年と女性がいる。
「倒れていたこの娘を見て、助けなきゃって思ったのと同時に、びびっと来たんです」
「び、びびっと?」
守が尋ねた。
「ええ。ほら、たまにあるじゃないですか。何かこう、びびっと来るような出来事というか」
「びびっと来るような出来事…?」
美優は、わかるようでよくわからないな、と思った。
「例えば。ある女性を見てびびっと来て、運命だって思う、みたいな」
「運命ねえ…」
春彦が腕を組んだ。
「女性だけじゃない。びびっとくる物とかありません?時計だとかアクセサリーだとか、いろいろ」
「うーん、まあそれはわかるような気がしますけど」
桃はうーん、とうなっていた。